[レポート]「緊急提言!経営課題としてのDXを阻む壁」イベント 〜痛みを伴うDXをすすめる覚悟はあるか?

[レポート]「緊急提言!経営課題としてのDXを阻む壁」イベント 〜痛みを伴うDXをすすめる覚悟はあるか?

2020年2月4日、一般社団法人日本パブリックアフェアーズ協会はPublic Affairs DX Seminar2020「緊急提言!経営課題としてのDXを阻む壁~経産省が警鐘を鳴らす「2025年の崖」とその乗り越え方~」と題したセミナーイベントを開催。セミナーには国内DXに詳しい様々なメンバーが招かれ、それぞれの立場から「DXを阻む2025年の壁」に対する考えを展開した。

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日本企業のDXへの取り組みに対して最も強い警鐘を鳴らしたのは、元野村総研理事で現在IPAの参与を務める室脇慶彦氏だ。

室脇氏はこれから訪れるであろうDXの課題に対し、経済産業省のレポート「2025年の崖」について解説するとともに、企業が選ばなければならない選択肢を「痛みを伴いいばらの道を進むか、痛みを感じず崖から落ちるかのどちらか」と表現する。それは、ユーザー企業の経営者も、ベンダー側も、この状況を放置することでどれだけのリスクがあるのかを真剣に考え、対策を打っていかなければ、どうにもならない状況になってしまうことを意味する。

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前述のDXレポートから読み取れることとして、DXが進まない大きな要因の一つに自社開発やカスタマイズを重ねた既存システムの存在がある。複雑化、巨大化、ブラックボックス化したシステムは保守コストや対応の長期化が懸念され、それが企業にとって大きな負債となってしまっているのだ。

こうしたことから、従来主流であったウォーターフォール型の開発手法や、組織や意思決定のスピードなど、変革が求められることになっていくだろう。

「国内企業のDX、いわゆるデジタル・トランスフォーメーションに対する取り組みが遅れている。」そう話すのは経済産業省 産業人材政策室長の能村幸輝氏だ。能村氏は数ある課題の中でも、特に人材面に対する課題を指摘する。

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これまでの採用や雇用における、個人と企業の関係が徐々に変わってきているという。例えば「新卒一括採用をして一度退職したら二度と戻れないようなクローズドな雇用コミュニティは、メンバーの出入りがあるオープンなものに変化していく」と能村氏はいう。

経営戦略と人材戦略の一貫性も重要だ。株主総会でも人材に関して話題になることが増えてきていることからもその様子はうかがえる。経営トップは、経営戦略の重要な要素として人材戦略位置付けるとともに、ビジョンやミッションを共有し、人材を抱え込むのではなく高めあっていく関係を築いていく必要がある。

経営課題としてのDX=人材の課題といっても過言ではないほど、人的リソースの重要性は高い。

DXを推進していく際に欠かせないキーワードとしてAIがあげられるが、職場でのAI活用に関する意識調査で「面白いことが分かった」というのは日本オラクル株式会社でHCMソリューションを手掛ける丸島美奈子氏だ。

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働き方改革で業務効率化が求められる中、その代表ともいえる企業の管理部門=バックオフィスでのAI活用において、日本は最下位という結果だったのだ。「人間のマネージャーよりもロボットのほうが信頼できる」と答えた人が74%という結果にも驚かされる。この結果は「終身雇用型、年功序列型のマネジメントからの変革が求められている」ことを意味するということだ。

組織の面からDXの難しさを指摘するのは、株式会社ペイロールの取締役でもあり、HRテクノロジーコンソーシアムのファウンダー・理事を務める香川憲昭氏だ。

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特に大手企業のDX推進の足かせとなる原因が「経営」「組織」「人材」のそれぞれの領域にある、という。

日系の大手企業の多くは「経営トップ」がスマホすら使っておらずITリテラシーが低かったり、「自社組織」内では、デジタル化され効率化された仕事の進め方/カルチャーがなじんでいなかったりする。そういう状態が続いているため、日系大手企業の若くて優秀な「人材」がGAFA等のDX最先端企業に流出してしまう、というのだ。そう指摘されると、「決して他人ごとではない」と感じる経営者・人事責任者も少なくないのではないだろうか。

DXへの取り組みは経営トップが推進するとともに、自社の組織、発注先企業、人事制度など、様々な分野に改革が必要となる。しかし残念ながら一部のオーナー系企業や、一度経営危機に瀕した企業以外では、DXへの取り組みについては依然として進んでいないのが現状だ。

今回のイベントに参加された方もそうでない方も、DXへの取り組みに関して一層の危機感を持つとともに、最重要課題として取り組み始める覚悟を持っていただきたいと切に願うばかりである。

(取材・文/マネジー編集部 有山智規)